夢の話をしよう
ビルの一室から外を眺めると、少し紫がかった霧がうっすらとたちこめていた。少し雨が降っていたのか地面も少し濡れていてところどころ水たまりがある。
男は窓から目を逸らし、部屋の隅においてあった箱を開ける。暫くの間、中身を見つめていたが、やがて静かに蓋を閉め、その場で眠りについた。
私が目を覚ますと、そこはガラスや鏡といったものを連想させる磨かれた建物ばかりが並ぶ街だった。私を起こした男は、黒ぶちメガネをかけた名前も顔も知らない人間だったが、何故か懐かしさを覚えた。彼は私についてくるよう言い、歩き出す。
よく見ると、彼は白衣を着ていた。学者か何かだろうか?遠い昔に会ったことがあるような気がするのだが、どうしても思い出せない。そうしているうちに、目的の場所に着いたようだ。
ずっと建物の中を歩いていたはずなのに、そこは恐ろしく空の広い場所だった。雲も見えた。彼が手招きする。
彼の傍らには直径1mくらいの球状の水槽が置いてあり、中には極々薄い紫の水が貯えられていた。風もなく、地面も揺れていないのに、何故かその水は揺らめいていた。
「この水を、私はあなたに言われてずっと研究している。どうだい?随分薄くなっただろ?」
彼は、その水槽を眺めながら満足そうに私に言った。
私はその言葉を聞いても、全く何も思い出せなかったが、不安も感じず、寧ろ爽やかな気持ちになり、広い空に向かって思い切り伸びをした。
空はどこまでも青く澄んでいた。
…今日は、こんな夢から目覚めた1日でした。